]V 決戦
ピイイィ…ン――
宇宙の果てから聞こえるような、異様な響き。
はじめは遠く、かすかに。
やがて急激に大きくなったかと思うと――
突然、静寂が訪れた。
まるで、はじめから何事もなかったかのように。
――やはり、来たか。
カイザーナックル。
手にする者は世界を手に入れるといわれ、真の強者のみが使いこなせるという伝説の武器。
古来、それをめぐって繰りひろげられる戦乱は数しれず――
それが今また、ここに。
ふたたび自らをめぐる死闘に呼ばれ、姿をあらわしたのだ。
――いや。そんなことはどうだっていい。
あれが来たということは、高嶺くんはきっとここまで来るだろう。
もはや、闘いを避けることはできない。
「おい孔士、どこへ行く」
阿修羅門前の石段を下へ降りようとしていた武士はこたえる。
「高嶺くんを迎えにゆく」
ザワッ……
門を守るため集まっていた百人の阿修羅がにわかに殺気立つ。
「ここで!」
ふり返った武士は、阿修羅門を指差した。
「――決着をつける。この孔士が高嶺竜児を倒す!」
その気迫に、阿修羅たちは息を呑む。
(孔士はやる気だ)
(ああ、完全にふっ切れたのだ…我らの同志として)
やがて、どこからともなく歓声があがった。
「まかせたぞ、孔士」
「オレたちは待ってるからな」
「ともに一族の悲願を果たそう」
ウオオオオオ――
鬨( とき) の声のように、背後で阿修羅たちの声援がわき起こった。
しかし、それも武士の耳には入っていない。
高嶺くん――
これからぼくは、きみと闘う。
おそらくきみは、ここまでの闘いでボロボロに傷ついているだろう。
けれど、そんなきみを倒すために――ぼくは、全力を尽くして闘う。
それが、きみという男に対する礼儀だと思うから。
だから…
だから、願わくば…きみも。
きみの全力を尽くして、ぼくを倒すために闘ってくれないか。
このぼくを…孔士という男を、憎んでほしい。
心の底から憎んで、憎みきって――
そうすれば、心おきなく闘うことができるだろう。
…けれど。
おそらくきみは、カイザーを投げ捨てて言うだろうね。
これで無益な闘いが終わるなら持っていけ――と。
そう、きみは――力や名誉より、友情と平和をえらぶ男だから。
その優しさゆえに、けっして闘いには向いていないきみを、カイザーが選んだのは皮肉だけれど……いや、だからこそ
カイザーはきみを選んだのかもしれないな。
だけど、ぼくにとっては――
カイザーナックルだの、一族の背負った密命だの、そんなことはどうだって構わない。
かりに、きみを倒してカイザーを手に入れたとしても。
それで、どうなるというのだろう?
この闘いはおわるかもしれない。
しかし今度は、阿修羅一族がカイザーを守るために闘いをはじめるだろう。
カイザーを手にするかぎり、死闘は絶えることがない。
ぼくは文字どおり阿修羅となって、死ぬまで闘いつづける宿命を背負うのだ。
そうだ――ぼくは阿修羅となる。
友情と決別するために、もっとも大切な真友( とも) である、きみを倒す。
そうしないと、果てしなき死闘の道を進んでゆくことはできないから。
友情を捨てなければ、生きてゆくことができないから……。
もしも、きみが本気でぼくに闘いを挑むなら。
きみに倒されるとすれば、それはぼくの本望だ。
そのときは――
願わくば、ぼくのためにきみの涙は流さないでほしい。
きみとかけがえのない時間をわかちあった、河井武士という男はもういないのだから。
高嶺くん…
どうか、ぼくを憎んでくれ。
憎んで、憎んで、心の底から憎みきってくれ。
でないと――
きみの顔を見ると、決心が揺らいでしまいそうだから…。
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