]X 藪の中 【コメント】



芥川龍之介の小説に、ある事件の当事者3人がそれぞれ真相を語るという話があります。
強盗、殺された男、奪われた女。…しかし、三人ともが「自分が最も悪人だ」と語り、回想される「事実」はまるで食い違っています。
真相は、『藪の中』。当事者にしかわからない「真実」もある。
そういった意味を(ちょっとだけ)こめたサブタイトルですが…ややひねり過ぎッスね(笑)

戸籍の親と実の親がちがう、ということは、昔の旧家などでは実際あったことらしいです。
例としては作家の永井路子さん(資料)など。


それはさておき。
このお遊び小説では、こういったひとつの可能性を描いてみましたが。
実際のところ、河井家ではどういう事になっているのでしょうか?
「(血の繋がっていないはずの)甥っ子・響が、武士にそっくりだ」
という記述のおかげでファンの間に混乱を巻き起こしている大問題であります!!
(特に河井ファンとしては)非常に気になるところですね!!
今後「2」の作中で車田先生がこの件について触れてくれれば一発解消なんですが。ううむ…。


では、素直に「阿修羅編」の設定を認めた場合、どうなるのか?
ここでちょっとマジメに考察してみたいと思います。

やはり「他人の空似」? いえ。他人じゃなく、むしろ家族に近いくらい親しい関係でしょうから。
「犬も長年飼えば飼い主に似る」。そうとしか…(笑)
まして、響は叔父さんのビデオをすりきれるほど見たくらいの、叔父さんフリーク。
ボクシングのスタイルにとどまらず、しぐさや表情(これは顔の造作より、個性を判別する重要な要素になります)までがそっくりだったとしても、不思議ではありません。

ここで重要な疑問点がでてきますね! そうです。響は、なぜ河井姓なのか?
まずオイラが考えたのは
1.河井家の後継ぎがいないため、養子として河井家の籍に入っている。
…という可能性(オイラの親戚に実例ありなんで…)ですが、これは貴子の家に「河井」の表札が出ているので、消えますね。
では
2.貴子が婿養子をとって、河井家を継いだ。
3.貴子は離婚して旧姓に戻っており、響をひきとっている。
4.大穴で。貴子は、同じく河井姓の夫(親戚か、地元人)と結婚した。(笑/…いや、田舎の旧家ではありがちです!)
5.超大穴で。貴子は外国人と結婚した。(笑/もうネタになってきたんで、やめます)
…といったところですが、どうでしょう?
個人的には、2番を有力と見たいところですね。
武士が阿修羅一族だとすれば、河井家のような旧家ではまず、長女の貴子が後継ぎの責を負うことになるでしょう。
ちなみに、この説をとれば。
・河井がひとりで欧州へ渡った時の、心境。
・河井が消息を絶ってから、貴子がすぐに手を打てなかったのは、なぜか。
この辺の心理的な陰影が深読みできて、なかなか味のある解釈だったりします。

余談ですが、河井が阿修羅一族の血をひいている、という設定が生きていると考えれば。
「河井が独身を通しているわけ」についても、これまた陰影のある深読みが可能ですね。

ここで、もうひとつ忘れてはならない疑問があります。
旧・河井邸は、なぜ荒れ果てていたのか?
結婚した貴子は、別の場所に住んでいます。これは、おそらく旧邸の近所でしょう。
貴子の両親(武士の育ての親)はどうしているのか?
…仮に健在だとすれば、これも現在はおそらく別の場所に住んでいると考えられます。貴子と同居している可能性もあり。
他にも河井邸に関しては、いろいろと考えられますが。
ここでスペース節約のため、簡潔に仮説を立ててみます。
「旧・河井邸には、かつて武士が独りで住んでいた」。
結婚して後を継いだ貴子は別宅に移った。よって河井が欧州に行った後は、住む人もなく荒れ果てた、と。
貴子が荒れた旧邸に手をつけず放っているのは、旧邸(とその土地)が武士の名義になっているからではないでしょうか…?
どうでしょう。
阿修羅編の設定が生きていると考えれば、これまた陰影のある解釈が可能になります。
それにしても、あの荒れようは只事ではありませんね!
たかだか十数年でああなるとは考えにくい。 まるで火事で半焼でもしたかのようです。これも謎といえば謎のひとつでしょう!


…ところでオイラ、ここで「陰影のある解釈」を連発しておりますが。
実はどろどろした心理的陰影だの感情のしがらみだのの話…すごく苦手なんですね(汗)
ですから詳しくは書きませんし、自分は小説のネタにもしません。…と、断言しておきます。
他の方が書いた同人パロディなら興味持って読みますが。…そういうことです(笑)

個人的には「どうか先生、このまま『阿修羅編』の設定には触れずにいってくれ!!」と祈っております!!
てゆーか、いっそ無かったことにしましょうよ! ね、先生?(笑)

最後に。
「河井家の謎」に関する、最も正しいと思われる解釈を述べておきましょう。

「響が河井姓なのは?」⇒河井の後継者である事を、読者にわかりやすく簡潔に表現するため。
「旧・河井邸が荒れていたのは?」⇒響の初登場シーンを“廃屋で古びたピアノを弾いている”という秀逸な象徴的イメージで、読者に強く印象付けるため。

…あはは。まあ、そんな事いっちゃおしまいなんスけど!
それでも人間たまには、なんの為にもならない「知的遊戯」を楽しんでみたっていいじゃないですかね?


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