無力感。 いつも、そいつを痛感してた…… たぶん、アイツは、きっと。 姉を目の前で失った時も。 ユーイチが飛び出した時も。 俺(主人公)達が、それを助けに殺し屋の元へ向かった時も。 そして、モノリス――― リーダーを、救えなかった時も。 本当は、強くありたかったんだと思う。 俺達スプーキーズの仲間や、身の回りの大切な人を、守るために。 それができないから、精一杯もがいてた…… ことさらに、いきがってみせたり。アジトを守るために、無茶したり。 お前の人懐っこさに、俺はずいぶん救われたけれど。 「淋しさ」を隠そうとしてたのは、わかってた。 「弱さ」を隠そうとして、笑ってたことも。 知ってたか? ヒトの「笑い」って、動物の「威嚇」の表情が変化したものなんだってな。 「自分に触れるな」という意味の、威嚇の表情。 弱い自分が、もどかしくて……無力な自分が、許せなくて。 だから。いつも、悔しくて。 悔しすぎるから、それをうまく表現するすべがなくて。 『殺すしかなかったのかよ!』 その言葉を、俺が黙って受け止めたのは。 ―――お前の無力感が、痛いほどわかったから……。 お前が責める筋じゃないだろう、とは、不思議にも思わなかった。 それだけ、お前は俺の「強さ」を信頼してくれていた。 そんな、大層なものじゃないのにな。 そして……そう思っちまうほどに、俺はお前より少しばかり恵まれてたって事実に、やっと気付いたから。 ―――お前のいつも感じていた「無力感」を、身に沁みて感じながら。 責めるつもりはない、と謝りながら、お前は泣いていた。 現実世界で、お前の涙を見たのは初めてだったことに、気づいた。 不器用なお前が、初めて素直に泣いていた。 いつも人懐っこくて、感情を素直に表わすくせに……妙なところで、意地を張ってたお前が。 「悲しみ」や「不安」―――人間のいちばん無防備な表情であるそれらの感情だけは、無意識に隠そうとして。 何でもない振りを装ったり、わざとらしくとぼけてみたり…… それでも追いつかなければ、攻撃的な「怒り」という形でしか、豊かすぎる感情を表現できなかったお前が。 最後にはただ、泣くしか……できなかった。 泣きたい時は、思いきり泣いたほうがいい。 悔しくて、無念で、どうにもならない感情を出し尽くしちまえば、傷が癒えるのも早いから…… それが…… 深すぎて、癒せそうもない傷―――だからこそ。 たぶんそれは、ひとが自分の心を守るための、本能で。 傷つきやすい心を、そうやって守ってきたから。 だからお前は、誰よりも早く立ち直って来れたんじゃないか。 そして、これからも、たぶん……。 俺は、信じている。 それが、お前の持つ「強さ」なんだと。 (完) |
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